感情を見過ごさない練習。完璧主義さんが疲れた心に優しくなるワーク
日々の忙しさの中で、仕事、家事、育児と多くの役割を完璧にこなそうと頑張っているあなたへ。時間に追われ、常に「もっとできるはず」「ちゃんとしなければ」と自分に厳しくなり、気づけば心が疲弊していることはありませんか。
周りの期待に応えようとするあまり、あるいは自分自身が高い理想を掲げるあまり、心や体が発する小さなSOSを見過ごしてしまうことがあります。特に完璧主義な傾向があると、「疲れた」「辛い」といった感情は弱さだと捉え、蓋をしてしまいがちです。しかし、自分の感情や疲労に気づかないふりを続けることは、やがて心身の大きな不調につながりかねません。
ここでは、完璧主義を手放し、自分の「しんどい」や「疲れた」といった感情を見過ごさないための具体的な練習方法をご紹介します。自分に優しくなり、心穏やかな日常を取り戻すための一歩を踏み出してみましょう。
なぜ完璧主義だと自分の感情を見過ごしやすいのか
完璧主義の人は、常に高い目標を設定し、達成に向けて努力を惜しみません。これは素晴らしい強みである一方で、「完璧でなければ価値がない」「弱みを見せてはいけない」といった考え方につながりやすい側面も持ち合わせています。
そのため、「疲れた」「助けてほしい」といった感情は、「完璧ではない自分」の証拠のように感じられ、受け入れがたくなります。結果として、これらの感情を無意識のうちに抑え込んだり、無視したりしてしまうのです。
また、「まだ頑張れるはずだ」「これくらいで音を上げてはいけない」と、自分の限界を認めようとしない傾向もあります。このようにして、心や体が発する大切なサインは見過ごされ、疲弊が進んでしまうのです。
自分の感情を見過ごすことは、自分自身の内面とのつながりを断つことでもあります。自分に優しくなるためには、まず、ありのままの感情に気づき、それを受け止めることから始めましょう。
ワーク1:心と体の「今の状態」に気づくチェックイン
まずは、頭の中で考え事ばかりしている状態から意識を切り離し、今の自分の心と体がどんな状態なのかに意識を向ける練習です。忙しい合間でも、数分あればできる簡単なワークです。
やり方
- 静かな場所で、椅子に座るか立ち止まります。目を閉じても、軽く開けていても構いません。
- ゆっくりと数回深呼吸をします。息を吸うときにお腹が膨らみ、吐くときに凹むのを感じてみましょう。呼吸に意識を集中することで、今の瞬間に意識を戻しやすくなります。
- 体の感覚に意識を向けます。頭のてっぺんから足のつま先まで、順番に意識を移動させてみましょう。どこか凝っている場所はありませんか。重く感じる場所、軽く感じる場所はありますか。特定の痛みやかゆみはありますか。呼吸に合わせて、体の内側の感覚を感じてみます。
- 次に、今の心の状態に意識を向けます。どんな感情が浮かんでいますか。「疲れている」「少しイライラする」「不安を感じる」「ホッとしている」「何も感じない」など、心に浮かんだ感情をそのまま受け止めます。良い・悪いといった判断はせず、ただ「〇〇と感じているな」と認識するだけにします。
- 可能であれば、感じたこと(体の感覚や感情)を簡単にメモに残しておくと、後で見返したときに自分のパターンや変化に気づきやすくなります。「肩が重い」「少し焦燥感がある」など、箇条書きで十分です。
効果
このワークは、日常の中で見過ごしがちな心と体のサインに気づく感度を高めます。定期的に行うことで、自分の状態を客観的に把握できるようになり、無理をする前に休息を取るといった調整がしやすくなります。
実践のポイント
- 完璧にやる必要はありません。たとえ1分でも、意識を向ける時間を持つことが大切です。
- 朝起きたとき、仕事の休憩中、寝る前など、決まった時間に行う習慣をつけると継続しやすくなります。
- 感じたことを評価したり、原因を分析したりする必要はありません。ただ「気づく」ことに集中しましょう。
ワーク2:「感情のラベリング」で客観視する練習
湧き上がってきた感情に名前をつける(ラベリングする)ことで、感情に飲み込まれず、一歩引いて客観的に眺める練習です。完璧主義の人は感情と自分を同一視しがちですが、ラベリングすることで感情を「自分の一部だが自分そのものではないもの」として捉えやすくなります。
やり方
- ワーク1で自分の感情に気づいたとき、あるいは日常の中で強い感情が湧き上がってきたときに試みます。
- 心の中で、その感情に名前をつけます。「これは『怒り』だな」「これは『不安』だ」「これは『悲しみ』かもしれない」といったように、最も近い言葉を選んでつぶやきます。
- もし言葉が見つからなくても構いません。「なんかモヤモヤする」「表現できない感情だ」とラベリングするだけでも十分です。
- 感情に名前をつけたら、「今、私は『〇〇(感情の名前)』を感じているんだな」と心の中で繰り返します。例えば、「今、私は『イライラ』を感じているんだな」のように。
- このとき、その感情を排除しようとしたり、良い・悪いと判断したりしません。ただ「観察する」ように、「そうなんだね」と受け止める意識を持ちます。
効果
感情に名前をつけることで、感情に支配されにくくなります。感情を客観的に捉える練習をすることで、感情に振り回されることなく、落ち着いて対処できるようになります。また、自分の感情を理解する手がかりにもなります。
実践のポイント
- すぐに適切な言葉が見つからなくても心配ありません。練習を重ねるうちに、自分の感情に合った言葉を選べるようになっていきます。
- ネガティブな感情だけでなく、ポジティブな感情(喜び、感謝など)にもラベリングしてみましょう。
- このワークは、感情を「コントロールする」のではなく、「理解し受け止める」ためのものです。
ワーク3:疲れた自分に「優しい声かけ」をする
心や体が疲れているサインに気づいたり、ネガティブな感情を感じたりしたとき、完璧主義の人は自分を責めがちです。「こんなことで疲れるなんて」「もっと頑張らなきゃ」と、自分に厳しい言葉をかけてしまいます。このワークでは、そんな自分への内なる批判を和らげ、代わりに優しい言葉をかける練習をします。
やり方
- ワーク1やワーク2で、自分が疲れている、あるいはネガティブな感情を感じていることに気づいたときに試みます。
- もし、自分自身に厳しい言葉をかけようとしていることに気づいたら、その思考をストップさせます。(これは難しいかもしれませんが、気づくだけでも素晴らしい一歩です)。
- 信頼できる友人や大切な家族が、同じように疲れていたり、悩んでいたりしたら、あなたはどんな言葉をかけるかを想像します。「大丈夫だよ」「よく頑張ったね」「疲れているんだね、休んでね」といった、優しさや思いやりのある言葉が浮かぶのではないでしょうか。
- その言葉を、そのまま自分自身に向けて心の中で、あるいは声に出して言ってみます。「(自分の名前)、疲れているんだね。よく頑張ったね」「大丈夫だよ。休んでいいんだよ」。
- 自分にかける言葉に違和感がある場合は、「もし大切な人がこの状況なら、なんて声をかけるだろう?」と問い直してみましょう。そして、その言葉を自分に返してあげてください。
効果
自分への優しい声かけは、自己批判を和らげ、自己肯定感を高める助けになります。疲弊している自分、完璧ではない自分も受け入れ、労わる感覚を養うことができます。これは「セルフ・コンパッション(自分への思いやり)」を育むための基本的な練習です。
実践のポイント
- 最初はぎこちなく感じるかもしれません。しかし、繰り返し行うことで自然にできるようになります。
- 完璧な言葉を選ぼうとしないことです。大切なのは、自分に寄り添い、優しさを向けようとする気持ちです。
- うまくいかなかった日も、自分を責めずに「今日は難しかったね。また明日試してみよう」と優しい言葉をかけてあげましょう。
完璧主義を手放し、自分に優しくなるために
これらのワークは、完璧主義を手放すための大きな変化への第一歩となります。自分の心と体のサインに気づき、感情を受け止め、そして自分に優しく語りかける練習を続けることで、あなたは自分自身との信頼関係を築いていくことができるでしょう。
完璧を目指すことをやめることは、決して「手抜き」や「諦め」ではありません。それは、無理な頑張りによって自分をすり減らすのではなく、自分の心と体を大切にしながら、持続可能な形で日々の生活を営んでいくための賢明な選択です。
自分に優しくなることで、心にゆとりが生まれ、周りの人にも優しく接することができるようになります。完璧ではない自分を許し、「これでOK」と認められるようになることで、心が軽くなり、日常の小さな幸せにも気づきやすくなるはずです。
焦る必要はありません。今日からできる小さな一歩から始めてみましょう。疲れた心を見過ごさず、自分に優しいまなざしを向ける練習を、少しずつ毎日の生活に取り入れてみてください。あなたの心が穏やかになることを願っています。