完璧主義で落ち込む心に効く。自分に優しくなる「セルフ・コンパッション」入門ワーク
完璧主義を手放し、心穏やかな日常を送るためのヒントを探している方もいらっしゃるのではないでしょうか。仕事も、家庭のことも、子育ても、すべてをきちんとこなそうと頑張るあまり、つい自分自身に厳しくなってしまう。期待通りにできなかった時には、自己嫌悪に陥ってしまう。そんな経験があるかもしれません。
完璧主義の傾向が強い方は、目標を高く設定し努力できる一方で、些細なミスや思い通りにならないことに対して、自分を強く責めてしまいがちです。周りからの評価を気にしたり、SNSで見る誰かの理想的な生活と比べて落ち込んだりすることもあるかもしれません。
常に「もっとできるはず」「これではダメだ」と自分にダメ出しを続けていると、心は休まる暇がありません。知らず知らずのうちに疲弊し、心身のバランスを崩してしまうこともあります。
どうすれば、この「自分への厳しさ」を少し緩め、完璧でなくても「これでOK」と自分を受け入れられるようになるのでしょうか。そこで役立つのが、「セルフ・コンパッション」という考え方です。
セルフ・コンパッションとは何か?
セルフ・コンパッションとは、直訳すると「自己への思いやり」「自分への優しさ」を意味します。困難や失敗に直面した時、あるいは自分の欠点や弱さに気づいた時に、批判したり責めたりするのではなく、友人に接するように温かく理解し、受け入れる態度のことを指します。
完璧主義の人は、他人には優しくできても、自分自身に対しては非常に厳しい基準を課す傾向があります。しかし、セルフ・コンパッションを育むことで、この自分への厳しさを和らげ、「できない自分」や「失敗した自分」も許し、労わることができるようになります。
セルフ・コンパッションは、主に以下の3つの要素から構成されると考えられています。
- 自分への優しさ (Self-Kindness): 失敗や苦痛に対して、自分を批判するのではなく、理解と温かさをもって接すること。
- 共通の人間性 (Common Humanity): 苦しみや不完全さは、自分だけでなく人間誰しもが経験する共通のものであると理解すること。一人だけではないと知ること。
- マインドフルネス (Mindfulness): 自分の感情や思考に気づき、それらを良い・悪いの判断を挟まず、ただ観察すること。感情に飲み込まれすぎず、適切な距離を保つこと。
これらの要素は、完璧主義の「自分だけが完璧でなければならない」「失敗は許されない」「感情に圧倒される」といった思考パターンへの対抗策となり得ます。
日常で試せるセルフ・コンパッション入門ワーク
セルフ・コンパッションは、特別な状況だけでなく、日々の小さな出来事の中でも意識し、練習することで育むことができます。家事や仕事、育児といった日常で無理なく取り入れられる具体的なワークをいくつかご紹介します。
ワーク1:辛い時に自分にかける言葉を変えてみる
何か失敗してしまったり、疲れてくじけそうになったりした時、心の中で自分にどんな言葉をかけているでしょうか。「どうしてこんなこともできないんだろう」「私がダメだからだ」と、ついネガティブな言葉を選んでいないでしょうか。
このワークでは、そんな時に意識的に自分への言葉を変えてみます。
実践のポイント:
- 落ち込んだり、自分を責めたりしている瞬間に気づきます。
- 心の中で、信頼できる親しい友人が同じ状況だったら、あなたはどんな言葉をかけるか想像します。おそらく、「大丈夫だよ」「頑張ったね」「気にしないで」といった、優しく励ます言葉ではないでしょうか。
- その友人に語りかけるような温かい言葉を、今度は自分自身に向けて語りかけてみます。声に出さなくても、心の中で唱えるだけでも構いません。
- 最初は不自然に感じるかもしれませんが、繰り返すうちに少しずつ自分への態度が変わっていくのを感じられるかもしれません。
例えば、子供が急に熱を出して仕事に穴を開けてしまった時に「私のせいで周りに迷惑をかけた」と思ってしまったら、「大丈夫だよ、誰にでもあること。大変だったね、お疲れ様」と心の中で語りかけてみます。
ワーク2:「心の友」への語りかけを自分へ
これもワーク1と似ていますが、少しアプローチを変えてみます。あなたが最も大切に思っている友人、あるいは架空の「心の友」を思い浮かべてください。
実践のポイント:
- あなたが抱えている悩みや、完璧にできなかったと感じている出来事を、その「心の友」が経験していると想像します。
- その友人に、あなたはどんな言葉を選んで語りかけるでしょうか。どんな態度で接するでしょうか。きっと、否定せず、共感し、励ますことでしょう。
- その温かく、思いやりのある言葉や態度を、そのまま自分自身に向けて行います。頭の中で考えるだけでなく、実際に自分自身の肩をそっと撫でてみるなど、身体的なジェスチャーを伴っても良いでしょう。
- 「自分は一人ではない」「多くの人が同じように苦労している」という、共通の人間性の感覚を持つことにつながります。
ワーク3:失敗を受け止めるためのジャーナリング
完璧にできなかった出来事や、それによって生まれた自己批判的な考えを、紙に書き出してみるワークです。
実践のポイント:
- 完璧にできなかったと感じた出来事や、それによって感じた辛い気持ち、自分への批判的な思考を、ありのままに書き出してみます。誰かに見せるものではないので、正直な気持ちを表現してください。
- 書き出した後、少し時間をおいてから、客観的な視点で見返してみます。これは本当に私だけの問題だろうか?同じ状況で頑張っている人は他にいないだろうか?
- そして、書き出した出来事や感情に対して、先ほどのワーク1や2で練習したような、自分への優しい言葉を書き加えてみます。例えば、「〇〇できなかったけど、あの時△△は頑張ったな」「辛かったけど、この経験から次に活かせることがあるかもしれない」といったように。
- このワークは、自分の感情や思考を整理し、それらに圧倒されることなく、客観的に受け止める練習になります。
ワーク4:身体への小さな労りを意識する
セルフ・コンパッションは心だけでなく、身体への優しさも含まれます。日々の忙しさの中で、自分の体のサインを見逃していませんか。
実践のポイント:
- 疲れているなと感じたら、短い時間でも良いので休憩を取ります。温かい飲み物を飲む、数分間目を閉じるなど、すぐにできることで構いません。
- 体が冷えていると感じたら、温かいシャワーを浴びたり、温かい服装をしたりします。
- 肩が凝っている、腰が痛いなど、体の不調に気づいたら、簡単なストレッチやマッサージをしてみます。
- 食事をゆっくりと味わって食べる、心地よいと感じる香りを嗅ぐなど、五感を満たす小さな行動を取り入れます。
- これらの行動は、「疲れている自分」「大変な思いをしている自分」の身体に気づき、意識的に労わることにつながります。
セルフ・コンパッションを実践する上でのヒント
- 完璧を目指さない: セルフ・コンパッションの練習自体を完璧にやろうとしないことが大切です。うまくいかない日があっても「まあ、今日はこんな感じか」と受け流すくらいで大丈夫です。
- 小さな一歩から: 一度にすべてを取り入れようとせず、ご紹介したワークの中から一つでも、日常で「これならできそう」と思うものを選んで試してみてください。
- 効果を感じるには時間がかかることも: 自分への長年の厳しい習慣を変えるには時間がかかる場合があります。すぐに変化を感じられなくても、気長に続けてみることが大切です。
- 感情を受け止める練習: 辛い感情や自己批判的な声が浮かんできても、それを否定したり抑え込んだりせず、「今、自分はこう感じているんだな」と、ただ観察する練習をします。マインドフルネスの視点です。
完璧主義を手放し、自分を労わることで得られるもの
セルフ・コンパッションを育むことは、決して自分に甘くなることではありません。むしろ、不完全な自分を受け入れることで、失敗を恐れすぎなくなり、新しいことに挑戦しやすくなったり、困難から立ち直る力がついたりします。自己肯定感が高まり、自分自身の価値を「完璧にできるかどうか」ではなく、「自分という存在そのもの」に見出せるようになります。
自分に優しくなると、心に余裕が生まれます。その心の余裕は、周囲の人、特に家族や子供たちへの優しさにもつながっていくでしょう。
「これでOKワークショップ」は、完璧主義を手放し、あなたらしい「これでOK」を見つけるためのお手伝いをしたいと考えています。まずは今日から、たった一つでも良いので、自分への「優しさ」を意識する時間を持ってみてください。その小さな一歩が、心穏やかな日常への大きな変化をもたらすはずです。